健康保険組合連合会

窓口負担、
なぜ増える!?
言いたいこともあるけれど、
落語で聴きたいそこんとこ。

後期高齢者の医療費窓口負担を
引き上げるって言ってもね、
要は次の世代に迷惑かけないって
いうお噺なんですよ。

さて、さっそく本題へ!

ムービー
「酒と恩返し」

箸休め小噺

そもそも、今回の75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が、なぜ議論され始めたかと言いますとね。「酒と恩返し」にも出てきました「2022年危機」について、もうちょっと詳しく、しっかりとお話しさせていただこうと、こういうことでございますがね…

「ばあちゃんとスマホ」

箸休め小噺

現役世代の負担の上昇を抑えるために成立した、今回の75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担の引き上げ法案についてですけどもね。75歳以上の方でも、2割負担になるのは年収にも条件があるようなんでございます。さらに、負担が急増しないように、緩和措置もあるようで…

メイキング
落語家紹介
柳家 喬太郎やなぎや きょうたろう

落語家。東京都出身、1963年11月30日生まれ。1989年10月、柳家さん喬に入門。00年、真打に昇進。05年、『国立演芸場花形演芸会』大賞、06年、『芸術選奨』で文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)を受賞と多数の賞を受賞。14年、落語協会理事に就任。『ハンバーグができるまで』や『夜の慣用句』、『午後の保健室』をはじめとする数々の新作落語で知られるが、師匠譲りの古典落語も巧みに演じる。エンターテインメント性に富んだ語り口で、年代問わず多くの落語ファンを魅了し続けている。 

上から受けた恩は、
下に返す。
案外腑に落ちる噺じゃ
ありませんか。
納得してもらえましたか? 健保寄席、みなさまお誘い合わせの上、
またどうぞお越しください。
#笑っちゃうけど笑えない健保の噺 
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健康保険の現状をさらに詳しく知りたい方は

「健康保険を深掘り」ページも
ご覧ください >

常日頃から、健康というものは人間何よりも大事なものではございますが、ご時世でございますから、なおのこと、そういう思いを一層強くするような塩梅でございますね。

お医者さんというのは、行かずに済むというのがたぶん一番いいんでございましょうが、しかし、生きておりますと、そういうわけにはまいりません。

そうなってまいりますと、やはり心配になりますのが医療費、健康保険ですとか、そういったところに気持ちがいくわけでございますがね。かといって、この健康保険というのも、内情はなかなか、大変なそうでございますがね。

新作落語動画 健保寄席 柳家喬太郎 「酒と恩返し」
ご隠居
「こんちは」
若い板前
「いらっしゃい! お久しぶりです。どうぞ、どこでも好きなところに」
ご隠居
「はい、座らせてもらおう。若い衆も久しぶりだな。久しぶりだよ、外で飲むのは。しかしまあ、この店は安心だ。ソーシャルディスタンスっちゅうのか? 今。席も一つ飛ばしになってるしさ、アクリル板もこんなになってるしさ。カウンターのところだってな、安心して飲めるってやつだよ。そうだな。生ビールもらおうかな、中ジョッキで。おー、なんだよ。久しぶりだなあ」
常連の男性
「お久しぶりです。お元気そうですね」
ご隠居
「おかげさまでな、歳は取ってるがね、元気でやっとるよ。おまえさんも元気そうで何よりだなあ」
常連の男性
「飲んでますか?」
ご隠居
「家ではね、ちびちびちびちび飲んでるがね。やっぱり、まあ、発散はしないからな。家飲みも楽しいけれどもね、うーん、やっぱり晩酌はな、そういうわけにいかんから、発散はせんから。おかげでもって逆にな、酒量が減って、酒もなあ、弱くなったよ。今ほとんど飲めんなあ」
常連の男性
「そういうもんですかねえ、やっぱりね」
ご隠居
「おー来たな、生ビール。じゃあ、若い人も久しぶり。おまえさんとも久しぶりだ。じゃあまあまあ、静かに乾杯といくか。静かに乾杯。うーん。ふっ。クイッ、クイッ、クックイッ、クイッ…。おかわり」
常連の男性
「飲んでますよね、強いですよね?」
ご隠居
「こんなぐらいのことはな、何てことは。どうもありがとう、置いといてくれ、しかし、久しぶりだな。どうだい、仕事のほうは?」
常連の男性
「なんとかやってますよ。テレワークですけどね」
ご隠居
「恥ずかしい仕事か?」
常連の男性
「照れくさい仕事って意味じゃありませんから、テレワークって。出社をしないで、うちでやったり、別の場所でやったりっていうのがテレワークですよ。しかしまあ、相変わらずお若いですよねえ」
ご隠居
「そう言ってくれるのはありがたいがね、今年、喜寿だよ、喜寿」
常連の男性
「喜寿って、七十七ですか! 見えませんねえ」
ご隠居
「三十ぐらいに見えるか?」
常連の男性
「それも見えませんね。でも、まあ、お元気そうで結構だなあ。楽しいですね、毎日」
ご隠居
「そう言うがね、これでもって気が重くなることもあるよ。あのな、医療費が上がるんだよ。七十五歳以上は、今まで負担が一割だったのが、今度は二割になるっつうんだ。冗談じゃないだろ!」
常連の男性
「僕に言ってもしょうがないですよ。医療費の窓口負担が、二割に上がるって話ですよね」
ご隠居
「よく知ってるな。おまえが上げたのか?」
常連の男性
「僕じゃありませんよ。話は聞いてます。実はね、会社でもよくそういう話になるんですよ。まあ、大変っちゃあ大変ですけどね、まあ、そこのところは、しょうがないんじゃないですか」
ご隠居
「何が大変だ?」
常連の男性
「いや、健康保険のほうもね」
ご隠居
「健康保険のほうも大変だと? わしらの知ったことか!」
常連の男性
「何を言ってんですよ、そんなこと言わずに。いやいや、実はですね、二〇二二年問題ってのがあるらしいんです」
ご隠居
「二〇二二年問題って何だ?」
常連の男性
「団塊の世代の方々が長生きでもってお元気で、結構なんですよ。ありがたくてうれしい話なんです。だけれどもね、そういう方々が、まあ、ご高齢になってくる。そうすると、人口がご高齢の方がますます増えるわけですよね。ご時世もあって、健康保険のほうも、結構財政が苦しいらしいんですわ」
ご隠居
「ほうほうほう、ほう」
常連の男性
「でね、現役世代が保険料でもってそういうところを、ちょっと賄うというか、負担している部分があったりするわけですよねえ。ですよね? そこのところも少し負担を軽くしようというような、そういうことらしいですよ」
ご隠居
「ふーん。おまえたちのためにか?」
常連の男性
「睨まないでくださいよ。僕一人じゃないんですから。それにね、上がるって言ったって、全部が全部、全員が全員、七十五歳以上の方が上がるわけじゃないらしいですよ」
ご隠居
「抽選か?」
常連の男性
「抽選では上げませんよね、こういうの。ある程度の年収のある人が上がるんだそうですよ、窓口負担が」
ご隠居
「ある程度の年収……? 年収一兆円以上か?」
常連の男性
「どこにいるんです、そんな人が。日本中全部払ってほしいわ、その人に。確かね、お一人の年収が二百万円以上の人かな」
ご隠居
「年収二百万円以上! ちっ、悔しいな。わしゃあ、年収が二百万一円なんだよな」
常連の男性
「ほんとかなあ。微妙な嘘な感じがするなぁ、それなぁ。それにね、まずはじめの、措置と言いますかね、いきなり、二割に上げるわけじゃあなくて、はじめはですね、上げ幅が、上げ幅がですよ、三千円まで。上限三千円なんですって。上がる分がですよ。はじめの3年間、そうするらしいです」
ご隠居
「ふーん、なるほど。年寄りを丸め込むわけだな」
常連の男性
「人聞き悪いなあ。そういうわけじゃありませんから」
ご隠居
「でも、何か、そんなことをすれば、現役世代が助かるっちゅうわけなのか」
常連の男性
「まあ、そういうことですね。でもねえ、大して助かるわけじゃないらしいんですよ。ていうのもですね、まあ、そういう具合にこれから制度が変わっていってもですねえ、現役世代の負担が楽になる分がですよ、一人あたり年間で七百円程度らしいです」
ご隠居
「七百円?」
常連の男性
「定食一回食ったらおしまいですよ」
ご隠居
「あんパンと牛乳なら三回だろ!」
常連の男性
「定食食わしてくださいよ、一回ぐらい」
ご隠居
「じゃあ、ほとんど変わらんちゅうことだな」
常連の男性
「ほとんど変わらないんですよ」
ご隠居
「じゃあ、今のままでいいなあ」
常連の男性
「そっちのほうにいくか……。そっちのほうにいくかなあ……。そこ、何とかしてくださいよ」
ご隠居
「しかしなあ、今まで払ってた分の二倍になるっちゅうのもなあ」
常連の男性
「節約の方法もありますよ」
ご隠居
「なんだ、節約って?」
常連の男性
「例えばですよ。お医者さんに行くでしょ? 出してもらうでしょ、お薬を。そのお薬を、ジェネリックにするとか」
ご隠居
「ジェネリックってのは何だ?」
常連の男性
「あのね、お薬をですね、別のお薬にするんです。もちろん成分が変わっちゃ意味がないんですよ。出してもらうお薬と同じ効果のあるお薬でもって安いほうのお薬にする。ね、効果は同じですから、飲んで体に効く。でも、安く買えるってことですよ」
ご隠居
「早い話があれか。ハンバーグって頼んだら、豆腐ハンバーグが出るっちゅうことか?」
常連の男性
「ハンバーグと豆腐ハンバーグは成分違いますからね.例えがヘンですね」
ご隠居
「そうだよなあ。ハンバーグだって、牛肉と合い挽きとは違うもんな」
常連の男性
「ハンバーグ論議は、別に今日はいいんです。そうじゃなくてですね、つまり、そういう方法もありますからってことですよ」
ご隠居
「ふーん。なるほどな。まあまあ、いろいろあるんだな。現役世代は大変だが。はは。若い衆。大将、なかなか帰ってこないな」
若い板前
「すいません。手間取ってるみたいで」
ご隠居
「どこに行ってるんだ?」
若い板前
「子ども食堂の手伝いなんですよ、仕込みの」
ご隠居
「子ども食堂って。おー、ときどきニュースで見るなあ。ご時世柄だ。大変なご家庭もある。子どもたちに、無償だったり、安くだったりなんかして、ご飯を食べてもらおう、お弁当を食べてもらおうって、あれか」
若い板前
「そうなんですよ。大将いつも言ってるんですよ、子どもというのは国の宝、未来を担うんだから、ねえ。子どもたちにはおいしいものをお腹いっぱい食べてもらいたいって大将も手伝いに行ってるんです」
ご隠居
「お宅の大将が? そんな人間には見えなかったがな。へえー、子どもたちのためにかい? だって、なんだろう、前までよく、この店に来るとさ、客の前でも平気で、若い衆、おまえのことを叱ったり、怒鳴ったりなんかしてたろう。あれなんだろ、今の、ハラハラとか、モロハラとか言うんだろ?」
若い板前
「それ、パワハラにモラハラですね。うちの大将のは、ハラスメントじゃありませんよ、あれは。厳しいですけれどもね、教えてくれてるんです、僕に」
ご隠居
「そんなふうに思えるのか?」
若い板前
「思えますよ。ああ見えて大将ね、普段は優しいんですよ。ベタベタはしませんけど、仕事は厳しいですけれどもねえ、飲みながら、話してくれますよ。大将も若い頃、先輩にはずいぶん厳しくきつく仕込まれたんですって。でも、おかげで今の俺があるって。そのご恩返しをするんだって言うんですよ」
ご隠居
「ご恩返しをか?」
若い板前
「うん。受けた恩は上には返せない。だから、上から受けた恩は下に返すんだって、よくそう言ってます。だから、俺、仕込んでもらってるんですよ」
ご隠居
「そうか、そうか……上から受けた恩は下に返す……子ども食堂の手伝い……若いもんのためにか。それで今日は、大将の留守、一人で任されるようになったんだな」
若い板前
「まあまあ、そういうことですかね。」
ご隠居
「はっはっは、そうか。じゃあ、若い衆の腕、味わわせてもらおうかな」
若い板前
「ありがとうございます。何召し上がります?」
ご隠居
「枝豆に冷ややっこに浅漬け」
若い板前
「腕が振るえないなあ、それ。もう少し何かありませんか?」
ご隠居
「あとでまた、エンジンをかけるよ。あ、それにそうだな。ビールもいいけど、酒にしようかな、うん。今のおまえさんの子ども食堂の話、恩を下に返すって話を聞いて、現役世代の負担の、健康保険の話も腑に落ちたような気がするよ」
若い板前
「そう思ってくれればありがたいですね」
ご隠居
「お礼にご馳走しよう。日本酒、冷でいいかい? 一合付き合わないか?」
若い板前
「ご馳走さまです」
ご隠居
「はっはっは。あ、若い衆、あのな、べろべろ正宗、あれ二人におくれ」
若い板前
「べろべろ正宗ね、今品切れなんですよ」
ご隠居
「おーい、仕入れといてくれよ。あれ好きなのになあ」
若い板前
「へべれけ錦はありますよ」
ご隠居
「へべれけ錦ってあれだろ、一合あたり二百円も安いやつだろ、べろべろ正宗よりも。あんなもの、うまいのか?」
若い板前
「とんでもない。値段は安いですけれどもね、喉ごし、口当たり、酔い心地、いや、負けず劣らずですよ。うまい酒ですよ、やってみてください」
ご隠居
「そうかい、じゃあ、もらおうか。じゃあ、おまえさんも。ありがと、ありがと、ありがと。へへへ、これがか? そうか、そんなにうまいのかな。ああー、これ口からお迎えだ、これは」
(飲む)
「うまいな、これ。なるほど。若い衆の言うとおり。これで一合あたり二百円も安いのか。やってごらんよ、うまいよ、へえー」
(飲む)
「あーっ。安くてうまい酒っていうのもあるもんだ。こりゃお得だな。はっはっ」
常連の男性
「お酒も、ジェネリックにしましたね」

自分の体は自分で管理をする。健康には自分で気を使う。これは基本でございますが、しかし、ずっと生涯そういうわけには、なかなかまいりませんで。どうしたって、ちょいと塩梅が悪くなれば、お医者さんに診てもらう、看護師さんのお世話になるなんてことになるわけでありますな。

しかし、こういうご時世でございますから、お医者さんに、病院に足を運ぶこと自体がちょいとはばかられるなというような、そういう気持ちになるなんてこともございますがね。

新作落語動画 健保寄席 柳家喬太郎 「ばあちゃんとスマホ」
配達スタッフ
「はい。ばあちゃん、運んだわ。これで全部よね?」
おばあさん
「はい、どうもありがとうね。いやまあ、助かるよ。買い物にもなかなか行くのも億劫になっちまうしさ、今さ、お宅みたいにスーパーでもって配達してくれるだろ。こんな年寄りは助かるよ。ほんとにどうもありがとうねえ」
配達スタッフ
「なんてことはないわよ。仕事だから大丈夫。でもおばあちゃん、これ、間違ってないわよね、持ってきたもの」
おばあさん
「はい、持ってきたもの、大丈夫だよ。うん。お米じゃなくて、今はもう、ほら、レンジでチンするパックご飯さ。面倒がないし、今おいしいからね。これも段ボールで二箱持ってきてもらったから、しばらく助かるね。味噌が二十キロだろ、それから、はいはいはい、牛肉のかたまりが、これが八キロか。豚肉、これね、バラ肉のところのかたまりだ。これ、五キロだね。鶏肉は、これは、胸肉のところを、これは六キロ持ってきてもらったね。どうもありがとね。それから、ペットボトルのウーロン茶、二リットルのやつだねえ、これ、段ボールでもって三箱か。缶詰め、これね、非常食ったって普段も食べるんだよ。ふふっ、缶詰めね、これがまた、三箱あるね。はいはい、こんだけあればいいかな」
配達スタッフ
「一人暮らしだよね、おばあちゃん? まあずいぶん買ってくれたわね、どうもありがとう。でも、玄関に置いといてもなんだから、奥に運ぼうか?」
おばあさん
「何言ってんのよ。そこまでしてもらっちゃ申し訳ないわよ」
配達スタッフ
「何言ってんの。私が心配だから、運ばしてよ」
おばあさん
「そうかい? ありがと、優しいね。すまない、すまない。じゃあね、お肉とさ、それからお味噌、これ、台所に運んでくれるかしらね。すぐそこで見えるだろ? あそこ、台所に置いといてくれればいいからさ」
配達スタッフ
「あとのものは?」
おばあさん
「あとは2階に上げちゃうから」
配達スタッフ
「やるよ」
おばあさん
「何言ってんの。それはあたしが運ぶから」
配達スタッフ
「おばあちゃん、無理よ、こんなにたくさんのもの。みんな、一つ一つが重いのよ。おばあちゃん、遠慮しないで」
おばあさん
「遠慮なんかしないから、台所頼むよ。あたしが持ってくからね。ちょいと、ちょいと。でも、持てるかしら。はい、よっこいしょのしょっと。うっ! ふー。うっ!」
配達スタッフ
「だからおばあちゃん、無理しないでよ」
おばあさん
「大丈夫よ。はあーっ! ほあっ、ほあっ、ほあーっ!
(軽々持ち上げる)ううーっ、おっはっはー。うっひゃひゃひゃひゃひゃ。うーはっはっは。うーひっひっ。うっひっひっひ。うーっひっひっ」
配達スタッフ
「人が変わってる、おばあちゃん。人格が違ってるわよ。大丈夫? おばあちゃん。年寄りの冷や水じゃないの?」
おばあさん
「大丈夫、大丈夫。アタシの体の九十九パーセントは、グルコサミンとコラーゲンでできてるからね」
配達スタッフ
「もはや人間じゃないわ、おばあちゃんそれ。お肉あんなにいっぱい買ったのはいいけどさ、ね、野菜がなかったわよ。お野菜も食べなきゃ駄目よ、栄養のバランス!」
おばあさん
「野菜はね、あたしが作ってんのよ、家庭菜園で」
配達スタッフ
「そんなこと、やってんの? へえー、何作ってんの?」
おばあさん
「うん。ドラゴンフルーツとパッションフルーツ」
配達スタッフ
「二十三区内だよね?できるの? そんなものが? 家庭で? 栽培できるの?」
おばあさん
「うちはね、胡瓜のことをパッションフルーツって呼んでるんだわ」
配達スタッフ
「意味が全然分からない、おばあちゃん。まあ、でもいいわね。お元気ね」
おばあさん
「はい、おかげで元気でやってるよ」
配達スタッフ
「お医者さんには行ってる?」
おばあさん
「そこだよ。なかなか行かなくなっちまってね。ていうのもね、いや、お医者さんもね、あたしは行かなきゃいけないとは思ってるんだよ。思ってるんだけれどもさ、何てえのかね、億劫になっちまってさあ」
配達スタッフ
「お散歩ぐらいは行かないの?」
おばあさん
「まあ、そうねえ、ポチが生きてる時分にはね。ワンちゃん、飼ってたのよ。うん、いい子でねえ。この子が番犬にもなるし、かわいらしいしさ、また、頭のいいワンちゃんだったのよ。賢かったの、うちの子は」
配達スタッフ
「そう。頭のいいワンちゃんだったんだ」
おばあさん
「そうなのよ。フレミングの法則を発見したの、うちのポチだからね」
配達スタッフ
「フレミングの法則は、フレミングが発見したんだよね? ポチじゃないよね? そんなに頭がよかったの?」
おばあさん
「そうなのよ。あのポチがいた頃には、よく一緒に散歩したものよ。もうね、かなり遠くまで歩いていったもんなんだけれどもさ。いやいや、別にね、病気とか事故で死んだわけじゃないの。あの子も長生きしてね、寿命でもって死んだんだけれども。だからまあ、今、悲しくはないのよ。でもやっぱりねえ、ポチがいなくなっちまうと、散歩に行こうって気持ちも失せちまってねえ」
配達スタッフ
「でもねえ、おばあちゃん、あそこが痛い、ここが痛いってことがやっぱりあるでしょう? お医者さんには、行ったほうがいいわよ」
おばあさん
「ま、そうだねえ。散歩も行かないぐらいで、お医者さんもなかなか行かなくなっちまったけれどもさ。億劫だから行かないっていうだけが、理由じゃないのよ。何があったってさあ、まあ、あたしがねえ、ちょっとしたことでもって行くのも申し訳ないかなと思って。今、先生方も大変でしょうよ。何てえのかね、もっとね、アタシよりも、急を要する患者さんっていうのかね、そういう人のために、行くのも申し訳ないなって気持ちになっちゃうんだよねえ」
配達スタッフ
「だったら、お家で診てもらったら?」
おばあさん
「往診に来てもらうのも悪いじゃないの、大したことないときに」
配達スタッフ
「往診じゃなくて、オンライン」
おばあさん
「えっ?」
配達スタッフ
「オンラインよ」
おばあさん
「いやいや、家庭菜園でさ、本業の農家じゃないんだよ」
配達スタッフ
「コンバインじゃなくてね、オンライン。パソコンでできるのよ」
おばあさん
「パソコンでか。あ、オンラインね、はいはい、それ知ってる、聞いたことある。パソコンで先生とやり取りか。その手があったら、出掛ける必要は確かにないやね。先生の手をわずらわせるのも、ちょいと減るのかな……パソコン持ってないもんだからね」
配達スタッフ
「スマホでもできるわ、よ……って言いたいけど、おばあちゃん、スマホ持ってないか」
おばあさん
「スマホは持ってるよ、大事なもんじゃないか。今ね、マッチングアプリにはまっちまってんだよ」
配達スタッフ
「若いね、おばあちゃん。マッチングアプリにはまってんの? だったら、スマホで先生とオンラインのやり取りすればいいのよ」
おばあさん
「ああそうかい。確かにね。おかげさまで体は健康、悪いとこはさほどありません。だけどねえ、あそこが痛い、ここが痛いはあるのよ。こないだも、台所でもって包丁で指切っちゃったしね」
配達スタッフ
「ほら、そういうことがあるでしょ」
おばあさん
「廊下でもって転んで腰打っちまって、3、4日痛かったのよ」
配達スタッフ
「そういうことがあるから、ねえ」
おばあさん
「マッチングアプリで知り合ったジジイのおかげで大やけど」
配達スタッフ
「それは、先生では治せないかな」
おばあさん
「大丈夫よ、やけどを負ったのは向こうのジジイだから」
配達スタッフ
「そういう話じゃないの、おばあちゃん。だったら、おばあちゃん、スマホでもってオンライン診療、やってもらったらいいわよ。やればいいのよ」
おばあさん
「そうかい。ありがとうね。いやいや、ポチがいる頃だったらね」
配達スタッフ
「遠いの? 先生のところは」
おばあさん
「かかりつけの先生かい、駅二つ分ぐらいだよ。いやいや、ワンちゃんの散歩をしている頃はね、ポチと一緒にその先生のところまで駅二駅、三駅は何てことないわよ。ずいぶん歩いたもんなんだけどさ」
配達スタッフ
「億劫がらないで歩きなさいって言いたいけど、ご時世だから、オンライン診療おすすめよ、おばあちゃん。じゃあスマホ、私ができるようにしといてあげようか?」
おばあさん
「だけどなんだね、このあとも配達があるんだろ?」
配達スタッフ
「今日、ここでもっておしまい」
おばあさん
「でも、店に戻らなくちゃだろ?」
配達スタッフ
「いや、ここんちのババアがうるさかった、しつこかったって言えばいいから大丈夫よ」
おばあさん
「とっても複雑な気持ちだね……今傷ついたね、あたしは……そうかい。わかった、わかった。じゃあ、スマホでもってオンライン診療っての、どうすればいいか教えてもらおうかね」
配達スタッフ
「先生は、何ていう先生?」
おばあさん
「かかりつけかい? それ教えてくれて、どうやってやったらいいか。おまえさんが、今、アタシに教えてくれるのかい? ありがとうよ、そんなサービスまでしてくれてさ。ははっ。ポチがいた頃にはねえ、よくその先生のとこまで……」
配達スタッフ
「今は一人なんだから、オンラインにしましょ。ね、スマホ貸して」
おばあさん
「そうかい。分かった、分かった。じゃあね、えー、これでもって、おまえさんに教えてもらおう。ただねえ、かかりつけの先生って言うけど、問題は、その先生なんだよねえ」
配達スタッフ
「先生に何か問題があるの?」
おばあさん
「その先生、実はね、獣医さんなんだよ」